春から夏にかけて道端や空地など至る所で見られるよもぎを定点観測した可愛いらしくも愛おしくなる心打つ写真集!
A4変形/タテ210ミリ×ヨコ210ミリ×厚9ミリ/総頁72頁/透明ビニールケース入/モノクロ ■定価 本体2800円+税

よくとおる通学路沿いに、ある日、いっぽんの草が、ひょっこりと顔をだした。
梅雨にはいってまもないころで、草はすくすくそだち、見るたびに、成長していた。
わたしはその道を、まいにち、朝、夕、とおりながら、草の生長を見まもるのが、
日に日に、楽しみになっていった。
地中に根をはやし、自分ではいっぽも動けず、ずっとおなじ場所に生きている草は、
どんな風景を見ているのだろう、と思った。
カメラを、草の背丈にあわせ、地べたすれすれのところにかまえ、
ファインダーをのぞいてみた。
草は、正方形のファインダーのなかにおさまり、見られるなかで、見ていた。
その草の名は、ヒメムカシヨモギ。
その、ヒメムカシヨモギに出会ってからは、まわりにひっそりと自生する草たちの姿も、
目がとまるようになった。
梅雨から夏にかけて、わたしはそれらの小さな存在に出会うために、いくつもの道へと出かけていった。
しばらくして、ヒメムカシヨモギがたおれているのに気づいた。わたしは、そのありのままの姿を、撮りつづけた。
そして、ある朝、ヒメムカシヨモギは、跡形もなく消えていた。
短い間だったが、その草は、一生を全うし、わたしは、その生まれかわりを探すかのように、
いまもなお、いくつもの道で、さまざまなヒメムカシヨモギの姿に、目をうばわれる。
だれもしらない、わたしだけの記憶――その記憶は、ときに幻のようで、
あの暑かった夏の陽ざしのなかに溶けてしまいそうだが、密会のように続いた、ふたりの会話が、証拠のように、くっきりとフィルムに刻まれている。
ミーヨン

―収録「テキスト」より